創作
電車がついた。ホームに降りると人はまばらだった。改札口への階段を登り、小汚い通路口を辿る。
改札を出た途端、ラインの着信音が鳴った。
「もうすぐ着きます」ひび割れたスマホの液晶画面に緑色の通知。サイトウは返信をすると、それをややぎこちなく肩の黒い斜め掛けカバンに入れた。
コンビニの入り口を見ると、韓国人と思われる薄い顔の、40代半ばだろうか、なんとなく突っ張った白い肌をした女がオニギリを頬張っている。肩にはブランド物と思われるバッグが、彼女の挙動と不釣り合いに目立っていた。
サイトウはコンビニに入店し、エナジードリンクを購入した。店を出ると、先ほどの女は初老と思われる、グレーの髪をした細身の男性と、なんとなく余所余所しい様子で話していた。
サイトウはそちらをじっと見つめ、そのあとなんだかばつがわるそうに目を開き、駅の反対方向に歩きだした。
バッグから携帯を取り出すと、コーヒーのシミで黄ばんだレシートが落ちた。サイトウはすばやく画面を滑らせた。
駅前に戻り数分たつと、ショートパンツにTシャツ姿の、20代中盤と思われる、茶色のショートカットの女が改札口から出てきた。サイトウはひたいの汗をぬぐい、また黒いバッグから携帯を取り出し、ロック画面をやや苛立ちながら解除した。サイトウは画面を二度確認した。女のもとへ行く。女はサイトウと目を合わせ、ややはにかんで言った。
「あのもしかして、ユウジさんですか」
サイトウは彼女の瞳をじっと見て、そのあと斜め上に目線をずらして答えた。
「あ、そうです。はじめまして。」彼女はエリと名乗った。
建物から出ると、外は存外暗くなっていた。空を見ると、日がもうそろそろ落ちようかという頃だった。
「この後上野に行こうか」
ユウジは後ろを振り返らずに言った。
「エリは歩いていきたいな」
彼は振り返ってエリの茶色の、二重がぱっちりとした瞳を見た。エリはじっと目線をずらさない。ユウジはポケットに目線をずらし、セブンスターの箱を取り出し、一本取り出して火をつけた。
住宅街を歩いていく途中、エリは自分の話をした。好きな食べ物、嫌いな食べ物、 家族構成、友人関係。ユウジは相槌を打ちながら聞いていた。冗談と思われること、すこし立ち入った話をしてきたときは、斜め上の空を見上げながら大げさに反応して見せた。
公園の入り口には人影がなく、濃い緑というより藍色の木々が連なっていた。エリはさりげな手を絡ませた。ユウジはもう暗くなるから危ないな、などと呟いてタバコを足元に落とし、彼女の指の細さを感じた。
「わたしね、好きな人がいるの。」
エリはなんだかすっきりとした表情で言った。
サイトウはそうか、と答えた。
電車を降りる。と、少しふらつく。サイトウは自分が思ったより酔っ払っていることに気づく。人波の中で黒い鞄からスマホを取り出そうとすると、エナジードリンクの缶が入った袋が少し顔をのぞかせる。甘ったるい砂糖水の香りが、サイトウの鼻腔をつついた。